ブライディー・ザ・マジック・メイド プロローグ


 ジージーとゼンマイ音を響かせながら、等身大のジュモーふうのビスク・ドールが、黒檀の会議机にずらりと座った紳士たちの背後をしずしずと進んできた。両手に持ったウエッジウッド焼の盆の上には、同じウエッジウッドの花柄の紅茶茶碗が乗っていて、パイプ煙草の煙が充満した部屋にアールグレイの薫りをたなびかせていた。
 くすみ、埃が積もったロングカーテンがただでさえ弱い日の光を遮る。色あせた壁紙やいかにも曰く因縁のありそうな黒光りする家具類。ゴテゴテ趣味の掛時計やら置時計。額に入った、またはピンで止められた無数の奇妙な写真や走り書きで埋め尽くされた陰鬱極まりない元貴族の食堂。
 人形は、もっとも上座に座っている片眼鏡の初老の紳士の脇で停止すると、右手で紅茶茶碗の受け皿をつかんで差しだそうとしたまま、ピクリとも動かなくなってしまった。
「どうやらゼンマイの限界のようですな、クルックス副会長」
 片眼鏡の紳士のすぐ斜めの次席に座っていた、日焼けした老紳士はそう言うなりパンパンと柏手を打った。
 すると、今度はメイドのお仕着せを着たオランウータンが紅茶のセットを運んできて、日焼けした老紳士に給仕をした。
「よしよし、いい子だ」
 そこまではよかったのだが、猿は下がる際に、隣の席で、また別の紳士が判じ物が書かれた十数枚のそれぞれ紙質も大きさの違うメモをトランプの七並べのように並べて整理していたものを派手に蹴散らして帰った。
「ウォーレス博士、どうしてくれますか? いまロンドン各地に住んでいる霊媒たちが昨夜感知した霊界との交信の関連性を調べていたところなのですよ」
 ウォーレス博士は咳払いを一つした。
「いままでいたメイドはいったいどこへ行ったのですかな。我々のメンバーの中で唯一ルーン文字の読み書きができて重宝だったのに」
「セルマさん? 給金が貯ったので、シェットランド島でヴァイキングのお宝を探す、とか言って暇乞いを。なんでも、彼女の祖先の地だそうで」 ずっと下座の紳士が答える。
「諸君、やはり、人間のメイドが必要のようじゃな」
 クルックス博士がおごそかに言った。
「そもそもなにゆえ、かように当たり前のことを議論せねばならなかったのですかな」
 ウォーレス博士お気に入りの、白黒ツートンカラーのマレー貘が会議机の周辺を走り回る。
「ドイル君」
 クルックス博士は、会議机の半ばあたりで悠々とパイプをくゆらせながら何枚かの心霊写真を眺めていた、一座の中では珍しく若手の三十代の紳士に呼びかけた。
「…人を見る目にかけては、きみが一番だろう。我々の多くは科学や古典の研究者、つまり引きこもりか探検オタクの爺どもだ」
「承知しました」
 ドイルはこころもち肩をすくめながらも微笑んだ。「ハドソン夫人のような人をスカウトして参りますよ」
「で、できたら、今度は、ち、ちっちゃい、か、可愛い子がいいな」
 隅のほうで乾板式写真機をいじっていた、滅多に発言しない、六十代の神経質そうな紳士が言った。
「また写真のモデルにするつもりなのではありませんか」
 副会長が白く長い眉をひそめる。
「いや、そういうことは…」
「分かりました、ドッジソン教授。貴方もお気に入るような子を探してまいりますよ。それではそういうことで。皆さん、お先に失礼するご無礼をお許しください」
 ドイルは快活に微笑みながら扉近くの帽子掛けにかけてあった山高帽とステッキを取った。
「ちょっと待ってくれ。ついでにこの言葉がどこの国や地方の、どういう意味の言葉か分かったら調べて欲しい。これらは写しだ」
 先ほ七並べをしていた紳士が、アルファベットの当て字を書き連ねたメモの束を押しつけてきた。
「いいですよ。調べてみましょう」
 メモの束をフロックコートのポケットに突っ込むと、ドイルは「英国心霊研究協会」が当座の本拠地としている「幽霊屋敷」を出て、晩春の霧が立ちこめる往来で辻馬車をつかまえた。

(これは古いアイルランドの言葉…ゲール語のようだな。ゲール語には「書き文字」はないからアルファベットで音を綴ったような) 辻馬車に揺られながらそう考えたドイルは、通い付けの、ピカデリー広場にある大きなアイリッシュ・パブ「白詰草亭」に行った。
 タタタンタン、タタタンタンという賑やかなジグやリールのステップの音が出迎える店内。ピアノや竪琴の演奏、アイリッシュ・ウイスキーや黒ビール、甘いリキュールの香りと、質素なジャガイモ料理の匂いがテーブルから漂ってきている。スカートを翻らせて踊る女たちや、メイドたちが忙しげに走り回る合間をかきわけて、赤ら顔でよく太ったオーナー・バーテンの親父のいるカウンターを目指す。
「オマリー、久しぶり」
「おお、こりゃあドイルの旦那」
「『タラモアの露』をダブルのショットで貰おうか」
「まいど。…でも済みませんけれど、新しい妖精の目撃談はありませんぜ。何度もお話している通り、ホンモノの妖精は、人間に自分を見たことを口止めするんでさぁ。妖精との約束を守って黙っていると、そいつにはいいことがあり、反対に約束を破って誰かに喋ってしまうとよくないことが起きるんです。ですから、酒場で大声でそういうことを話している奴は、ほとんど与太話か、昔話の伝説か、よくて又聞きでさぁ」
「そうか、そりゃ残念だな。でもきょうはそれだけじゃあないんだ。…この走り書きを読める者はいないかな」
 ドイルは例のメモの束を渡した。
 ひとしきりそれらを眺めていた親父は、メイドのお仕着せのまま狭いステージに上がろうとしていた、十四、五歳の、燃えるような赤毛のおかっぱ髪の少女に呼びかけた。
「ブライディー、ちょっとこっちに来い」
「唄はいいんですか、オマリーさん」
「順番を変わってもらえ」
 オマリーはドイルのほうに向き直って声を潜めた。
「…あの子も徴税吏に家を焼かれて夜逃げしてきた可哀想な子でしてね。なんでもその前はウォーターフォード男爵様のお嬢様の侍女をやっていたとかで、わしらよりも学があるんでさぁ。でも男爵様が英国国教会に改宗なされてロンドンの上屋敷に移られてからは…」
「なに、あのアイルランドで一、二の古文書の収集家の?」
 そうこうするうちに赤毛の子がやってきた。間近でみると、利発そうな鳶色の瞳に、不安と寂しさを漂わせている。
「何の御用でしょう、オマリーさん」
「こちらの紳士がこの文字を読んで欲しいとおっしゃっているんだ」
 少女はひとしきり走り書きの書かれたメモに目をやっていたが、やがてカウンターの上でそれらの順番を並べ直しした。
「ゲール語のようですけれど、意味も脈絡も関連もないと思います。クーフーリンといったケルト神話の神様の名前や、『常世国』を意味するティルナノーグや、島の名前のイニッシフリらしい言葉がありますけれど、つながりはありません」
「ようし、もう行っていいぞ、ブライディー」
 ステージに戻った赤毛の子は備え付けの竪琴を手にとって、ドイルがこの店で一度も聴いたことがない、不思議な言葉と旋律の唄を歌った。ダンスに興じていた客たちはステップを流れるようなものに変えた。食事をしていた客たちは飲み食いの手を休めて聞き惚れた。中には涙している者さえいた。
「珍しい唄だね」
 拍手と喝采の中、ドイルもようやくそれだけ言った。
「男爵様の一人娘の侍女になる前は、貧救院で働いていたとかで、そこには古い唄を知っていた老人たちや、行き倒れの吟遊詩人たちがよく運び込まれていたそうです。彼女は、そういう人々の歌う歌を一回聴いただけで覚えたそうで、その噂を聞いた男爵様が、大金を寄付して譲り受けたんです」
 オマリーも自ら商売ものの杯を重ねていた。「男爵はどうして苦労して手に入れた彼女をロンドンに連れてこなかったのかね?」
「これも噂なんですが、男爵様は古文書の蒐集よりも、もっと大層なな趣味にハマられたから、らしいですよ」
「一体なんだね、その大層な趣味、というのは?」
 ドイルは半クラウン銀貨を慈善のための釣り銭の小銭を貯めておく大きなガラス瓶に入れて尋ねた。
「それが、いま流行りの『降霊術』でして」

 乳のような霧が立ちこめ、ガス灯の明かりが人魂のように続く夜、四頭立ての馬車がとある壮麗な貴族の屋敷の前に止まった。
 降り立ったのは英国心霊研究協会の面々四人。さっそく慇懃な執事に招き入れられ、立派な水晶硝子の花瓶や、一輪挿し、灰皿やディキャンターが所狭しと飾られた応接間に招き入れられた。
「少々お待ちください。すぐにお屋形様が参られます」
 執事が下がると、一同はさっそくガラス製品の品定めを始めた。
「ウォーターフォードというところは確かガラス工芸で有名なところじゃったな」
 クルックス博士は金の懐中時計に仕込んだ拡大鏡で屈折率を調べ始めた。
「シャンデリアもバッキンガム級ですな」
 密林探検の経験が長いウォーレス博士が見上げる先には、数十本の蝋燭が明々と燃えている。
 ドッジソン教授は持参した乾板写真機を組み立て始めた。ドイルはなぜか通路に沿って打ち込みが盛り上げてあるヨークシャー織り絨毯をじっと眺めている。
 ほどなく、当主のウォーターフォード男爵が、十四、五歳くらいの長い亜麻色の髪に菫色の瞳の儚げな美少女を連れて入ってきた。
「初めまして皆さん。こちらは一人娘のフィオナです」
 フィオナ・ウォーターフォードは絹のドレスの裾を持ち上げて貴婦人の挨拶をした。
「クルックスです。専攻は電気物理学」
「ウォーレスです。進化生物学をやらせてもらっています」
「ド、ドッジソンです。数学を教えています」
「コナン・ドイル、作家です」
「よく存じておりますよ。皆さん高名なお方ばかりですからな」
「わたくし、ルイス・キャロル様やドイル様の小説の大ファンです」
 フィオナは微笑んで言った。
「それは光栄です」
 ドイルとドッジソンは揃って会釈して答えた。
「でも、ホームズは死んでしまったのですね」
「そうですよ。でも復活を願う手紙が殺到しているので、甦るかもしれません」
「フィオナ、おまえは降霊会の支度をしておいで」
 フィオナはもう一度会釈して出て行った。
 その目が(来て良かった)と言いたげに輝いていたドッジソン教授が珍しく口火を切った。
「お嬢様はニューナム女子大へのご進学を考えておられるとか。ケンブリッジのことでしたらお力になれるか、と…」
「それがですな、教授、亡き母の声を聴いてからは、どうしようかと悩んでいる様子なのですよ」
「と申しますと?」と、ドイル。
「亡き私の妻、あれの母の霊は、大学などには行かず、早くいい相手を見つけて結婚して、自分や私を安心させてくれるように、と願っているのですよ」
「なるほど。今夜はその席に同席させて頂いて確かめさせて頂ける、という訳ですね」
「写真はどうでしょうか」
 おずおずとドッジソン。
「霊媒に尋ねましたところ、やはり写真は困る、マグネシウム・フラッシュなどとんでもない、ということで」
「そうですか… それは残念。では、せめて記念にお嬢様の写真を…」
「ドッジソン教授、あなたは何をしに来られたのですかな」
 副会長が小声でたしなめる。
「申し訳ありませんが、そういうのも勘弁してやってください。難しい年頃でしてな」
「分かります、分かりますとも…」
 ウォーレスが頷く。
 やがて刻限が来て、一同は降霊会が行われる部屋へと長い廊下を移動した。ドイルは、廊下の絨毯もまた真ん中だけ打ち込みが盛り上がっていることに気が付いた。
 途中、扉が開け放たれた部屋がいくつもあった。それらの部屋はすべて書庫で、壁一面天井まで設えられた本箱には、びっしりと隙間なく蔵書が埋まっていた。
「さすがに古文書収集家のお宅だけのことはあられますな」
 ウォーレス博士がまた上を見上げて言った。
「なに、ほとんどは先祖伝来の遺物ですよ。それに、万巻の書物も、母親の代わりにはなってくれません」
 ふと気が付くと、ドイルの姿が消えていた。
 クルックスとウォーレス、それにドッジソンは手分けして書庫を探した。案の定、ドイルは「妖精関係」と書かれた部屋で稀覯書を一心不乱に読みふけっていた。
「ドイル君、君まで…」
「ああ済みません、副会長。つい…」
 ドイルには、彼が創作した名探偵と同じ短所があった。

 最後の蝋燭に蝋燭消しが被せられ、漆黒の帳が降りた。
 霧のヴェールに包まれた月明かりに浮かび上がるカードルームを改装したさして大きくない部屋。暖炉に火はなく、釣鐘草のポプリの香りがかすかに漂っている。気配で存在を示しているのはドイルとクルックス、ウォーレスの両博士。ドッジソン教授。フィオナ・ウォーターフォード。それにキーラと名乗る黒い頭巾とローブで全身を覆った若い女性の霊媒…灯りが消される前も、長く垂らした黒い前髪で顔を隠していた…の六名だけ。ウォーターフォード男爵は「亡き妻の声を聞くのはとても耐えられない」と言って、一度も出席したことはないという。
 ドイルたち「英国心霊研究協会」の面々が奇妙に思ったのは、この降霊に使われているテーブルだった。ちょうど六名が座ると満席になるくらいの大きさの円卓。高さ一インチほどの縁があって、丸薬よりもやや大きいクリスタル・ガラスの玉が、互いに重ならないようにきっちりと、びっしりと敷き詰められている。テーブルの脚は中央に直径十インチほどの太さのものが一本あるだけで、床とはセメントで固定してあるらしかった。
「これはやはり霊を呼び出しやすくするための工夫ですか」
 クルックス博士が尋ねた。
「そうです。本当は水晶が望ましいのですが、ウォーターフォード産のクリスタル・ガラスでも同等の効果が得られます」
 霊媒のキーラが低い声で答えた。
「すると、このテーブルはアイルランドにいた頃に作らせたものなのですか?」
 ウォーレス博士の穏やかな声。
「そうよ。当時キーラはロンドンから通ってきてくれていたの。でも、お母さんの声を聞いて、私たちがロンドンに引っ越してきてからは再々降霊をしてくれるようになって…」
 キーラと向かい合う位置に座ったフィオナは祈るように両手を組んでいた。
「アイルランドにいた時は、どういう人々がお母上の降霊に参加されておられましたか?」
 ドイルが尋ねた。
「それは、母の親戚や、友達や、もう一度母の声を聞きたいと望んだかたたちです」
「メイドたちなどは参加しませんでしたか?」
「人数が少ない回は、母に仕えていたメイドたちも許されて…」
「お嬢さん、貴女のメイドは?」
 フィオナは首をかしげた。
「そう言えば一回だけ…」
「さぁ、もういいでしょう。あまり我々だけで話し込んでいると、せっかくすぐ近くまで来ている霊が去ってしまいます」
 キーラが遮った。
「これは失礼申し上げた。では、さっそく始めて頂きたい」
 クルックス博士が詫びると、キーラはガラス玉を敷き詰めたテーブルに両手のひらをぴったりと当てて瞑想に入った。
 ウォーレス博士は例によって、小さなガラスのシャンデリアがぶら下がっている天井を見上げた。天井とテーブルのあいだの空間に不審なものは何もない。ドッジソン教授は暗闇にほんのりと浮かび上がるフィオナの顔(かんばせ)をチラリチラリと眺めている。風がカタカタと窓を叩き、気のせいか、床もほんのかすかに揺れ始めた。全員が息を整えること数分、キーラは少し身体を震わせたかと思うと、先ほどとは違った声色でゆっくりと語り始めた。
「…フィオナ、フィオナ、きょうもとても元気そうで、お母さんとても嬉しいわ」
「お母様」
「今夜は、お母さんの知らない人たちがいるようだけれど…」
「お母さん、この人たちは英国心霊研究協会の立派な学者さんたちよ。お母さんとお話がしたくて来られたの。ドイル様とルイス・キャロル様の小説は、私も大ファンなのよ」
「そう… だったら仕方ないわね。お母さんはいつも、あなたとゆっくり話がしたいと思っているのよ」
「ルイス・キャロル様…いや、ドッジソン教授は、私にニューナム女子大への進学を勧めてくださっているの。校長先生から教授、講師の先生まで全員が女性だから、安心して寄宿して学べるのですって」
「ニ、ニューナム・ケンブリッジではお嬢様が興味を持たれているアイルランドの古い伝承の研究も存分にできるものと思います」
 ドッジソン教授が霊に向かって呼びかけた。
「有難うドッジソン教授。しかし私は娘に早く素晴らしいお相手を見つけて結婚して欲しいのです。私も、フィオナの『お母さん』と呼んで貰えたことが、肉体を失ったいまでもこうして呼んで貰えることが一番幸せだから」
「しかしウォーターフォード男爵夫人、生前あなたは、フィオナさんの進学を応援しておられたとのことですが…」
 ドイルは霊媒を見つめて尋ねた。
「こうして命を失ってみると、学問よりも愛情に生きたほうがよいのでは、と悟ったのです。…さあ、お客様がたのご質問はもういいでしょう。フィオナ、私はあなたと話したいのです」
 ドイルはフィオナの耳にそっと囁いた。
「あなたと亡くなられた母上しか知らないことを質問してみてください。答えられなければ、この母上の霊はニセモノ、ということになりましょう」
 フィオナはほんのかすかに頷いて、そして尋ねた。
「お母さん、私が小さかった頃、はしかにかかって死にかけた時、召使いたちには任せずに、ずっと付きっきりで看病してくれたことを、とても感謝しているわ」
 しばらく間があった。
 霊は一分、二分と沈黙したまま何も答えられなかった。
 心霊研究協会の面々が、(やはりインチキか)と鬼の首を取ったような気持になりかけた時、キーラの手のひらが小さなガラス玉を敷き詰めたテーブルを一撫でした。
「ようやく熱が峠を越えて、目が覚めたフィオナが、庭園に実っていていた甘い木苺をねだった時は、お母さん本当に嬉しかったわ」
「お母さん…」
 フィオナは涙ぐんだ。
 暗闇の中、博士たちは思わず互いの顔を見合わせ、そして尋ねた。
「フィオナさん、この質問をする、ということを予め霊媒に話さかったでしょうな?」
「いえ、絶対にしていません…」
 帰りの馬車の中でも、博士たちはしきりに感心していた。
「今度こそホンモノの降霊のようですな」
「やはり霊は存在するのだ」
「あのガラス玉が霊のパワーを増幅しているのだとすると、やはり霊は光の粒子と関係があるのかもしれぬ」
 クスリと笑ったドイルは、やがて「ハハハ…」と大笑いした。
「どうした、ドイル君。何がそんなにおかしい?」
「おかしいですよ。皆さんコロリと騙されて… あんなもの、簡単なトリックです」
「ええっ!」
 博士たちは目を丸くした。
「…しかし、クルックス博士の仰ることは当たっています。あのキーラという霊媒。『あの』特別誂えのテーブルがなければ、フィオナ嬢の母上の霊を呼び出せないと思いますよ」

 数日後の夜、「英国心霊研究協会」では「アイルランドの料理を食する夕べ」が催された。出席者は、とりわけ心霊に関係のあることではないということで、十人ちょっと。料理人兼メイドは、ドイルがオマリーの白詰草亭」から借りだしてきたブライディーだった。
「皆様、アイルランドという国は物成りの乏しいところでございまして、皆様のお口に合うような料理を作ることはかなり難しいかと存じますが、こうして仰せつかった以上は一所懸命にやらせて頂きます」
 彼女は前菜の前にそう挨拶した。
「ほぅ、羊の肉を使ったシチューじゃな」
 「卿」の称号も持っていて、あちこちの美味なるもの慣れているクルックス副会長もご満悦だ。
「暖めたスモークサーモンに、牛肉の黒ビール煮込み… お国はきっと冬はイングランドよりも寒いところなのでしょうな」
 これまた「卿」のウォーレス博士は、その専攻から、いつも気候風土に興味を持っていた。
「この焼肉にかかっているマッシュポテトとキャベツのみじん切りを牛乳であえたソースは何というのかね?」
 ドイルが質問する。
「これはコルカノンと申します」
 宴は和気あいあいのうちに進み、やがて食後のハーブティーが出た。
「やっぱり人間のメイドはよいものですな」
 と副会長。
「故郷遠く離れた異郷で食べたくなるのは、きっとこのような料理でしょうな」
 とウォーレス。
「ブ、ブライディーさん、その… あとで写真のモデルをしてはくれないだろうか。もちろんお礼は…」
 食事中、料理よりも彼女のほうをチラチラと眺め続けていたドッジソン教授が、どこからともなく、かさばる乾板写真機を持ちだして言った。
「せっかくですが教授、後かたづけがございますし、第一わたくしは貴族の令嬢でも舞台女優でもございませんので…」
「またフラれましたな、教授」
「な、何を仰る副会長、次という機会もありましょうぞ」
「ところでブライディー、オマリーによると、きみは読書が趣味だそうだが、最近何かお薦めの本はあるかね?」
 パイプをくゆらせながら、ドイルが尋ねた。
「まだそんなに有名ではないのですが、郷里では、ブラム・ストーカーというおかたが、大層面白いお話を書かれるというので評判になっております」
「ブラム・ストーカー氏なら、確かうちの通信会員じゃ」
 副会長が思わずハーブティーをかき混ぜる手を止めた。
「そう言えば手紙に『いま、夜になると美女の血を啜るために徘徊する東欧の美形の伯爵の話を執筆中です。自分で言うのも何ですが、これは売れるような予感がします』とかなんとか、書いてきておられましたぞ」
 ウォーレス博士も頷く。
「それはなかなか面白そうですね。こちらもホームズを復活させでもしないことには、うかうかしておられませんな」
 ドイルも破顔一笑した。
「さて、そろそろお土産にしましょう。実はお土産は二つあるのです」
 ブライディーが小箱に詰めた、ジャガイモをすりつぶして油で揚げた軽食をみんなに配った。
「ポテトパフという、庶民の食べ物でございます。研究や執筆のお夜食にぜひどうぞ」
「なかなか美味しそうじゃないか」
 ウォーレス博士がその場でつまみ食いをした。
「で、もう一つは?」
 ブライディーは持参してきていた竪琴を取りだして、ゲール語で『庭の千草』を歌った。
 澄んだ歌声が古びた食堂に反響して、皆がそれぞれの家や家族のことを思い出した。
 拍手は、「白詰草亭」の時と同じくらい鳴りやまなかった。
 会は無事お開きになって、出席者たちも迎えの馬車や辻馬車に相乗りしてそれぞれ帰っていった。
 ドイルは、厨房でただ一人、楽しげに端唄を口ずさみながら皿やグラスを洗い続けているブライディーのそばに行って、会員たちから集めた心付けを渡した。
「有難う、お陰で今夜は話も弾んで大盛会だったよ」
「いえ、こちらこそ。ドイル様も、奥様のご病気が一日でも早く良くなられることをお祈り申し上げております」
「うん、そうだね」
 人も羨む成功した作家の横顔が蝋燭の灯りを受けて翳る…
「…人それぞれの事情や、心の中というものは、とてもうかがい知れず、計り知れないものがあるからね」
「と、申しますと?」
「ウォーターフォード男爵の降霊会のことだよ。きみも、いんちきであることに気づいて、それで暇を出されたんだろう?」
 皿を洗っていた手がピタリと止まった。

「ニャーン」
 数日後の霧の夜更け、屋敷の二階の自室のベッドでこっそりとオスカー・ワイルドの新作を読んでいたフィオナ・ウォーターフォードは、窓辺で鳴く猫の声に、本を置いて歩み寄った。
「出入り口ならほかにいっぱいあるでしょうに、仕方ない子ねぇ…」
 ところが、窓の向こう、霧越しの月光に照らされて立っていたのは、メイド…それもアイルランドにいた時に暇を出されたブライディーだったので、フィオナは仰天した。
「ブライディー!」
 ブライディーは人差し指を立てて口に当てた。フィオナは窓を開けて彼女を招き入れた。「お久しぶりです、お嬢様。驚かせてすみません」
「懐かしいわ。まるで家出した猫がひょっこり帰ってきたみたい。あなたもロンドンに来ていたの?」
「はい。いま『白詰草亭』というところで働かせて頂いておりまして、英国心霊研究協会というところにもお世話になっています」
「ああ、このあいだ降霊会にいらしたかたがたね」
「そのかたがたが、お嬢様にぜひお見せしたいものがある、と、わたくしを使者に」
「『ぜひ見せたいもの』? それは何でしょう?」
「来て頂ければ分かる、と…」
「もちろん、あのことでしょうね? ドイル様たちならお会いしたいわ」
 フィオナはじっとメイドの目を見つめた。ブライディーはコックリと頷いた。
「分かりました。あなたの言うことだから間違いないでしょう」
「お着替えと御髪を手伝います。メイドのお仕着せが良いでしょう…」
 フィオナは余っていたメイドの制服に着替えた。
「…ワイルド様の裁判は、どうなることでございましょうね」
 ブライディーは、かたわらの本の表紙に目をやってつぶやいた。
「わたくし、彼が屋敷で執筆しようと、牢獄で執筆しようと、面白いものを書いてくれればそれでよいと思っています」
 フィオナはブライディーが用意してくれていた梯子をつたって庭に降りた。
「梯子なんか要らなかったのに」
 フィオナは枝を伝って降りたがった。
「梯子でしたら、書庫梯子でお慣れになっていると思いました」
 放し飼いの二匹のアイリッシュ・セッターが二人に走り寄ってきた。
「よしよし、おまえたちも元気だったのね」
 ブライディーが頭を撫でてやると、犬たちは尻尾を振って顔を擦りつけた。
 一本だけはずしてあった鉄の柵のあいだをすり抜けると、一頭立ての小さな馬車が隠してあった。
「ブライディー、あなたが馬車に乗りなさい。わたくし、一度御者というものをやってみたかったのです」
「それは…」
「馬場での乗馬は、同じ所をくるくると回ってばかりでつまらないし、狩りは生き物の命を奪うので性に合いませんし、殿方との遠乗りは気を遣うだけですし… それともわたしの御者では信用できませんか? この服なら、馬車を飛ばしていても誰も何も思わないでしょうし…」
 ブライディーは渋々馬車のほうに乗った。
「どうしてもと仰るなら肩掛けをお貸し申し上げます。それに、あの、危なかったらすぐに代わりますので」
「大丈夫、曲がるところを言って!」
 ところが「お嬢様」は雲助辻馬車も真っ青な速さとと乱暴な手綱捌きで深夜のロンドンの街を駆け抜けた。途中、何度も他の馬車とぶつかりかけ、通行人をはね飛ばしそうになった。相手の「バカヤロー」「どこの使用人だ?」の声が何度もこだまする…
「お、お嬢様、わたくしが代わります…」
 目的地の「幽霊屋敷」に着いたとき、ぐったりとなっていたのはブライディーのほうだった。
「ようこそ、フィオナお嬢様。突然のお招きにもかかわらずご足労頂いて光栄です」
 ドイルとクルックス副会長、ウォーレス博士、そしてドッジソン教授が出迎えた。教授は、メイドのお仕着せ姿でも一段と映えるフィオナをただ呆然と眺めていた。
「夜明けまでには戻らねばなりません。早速ですけれどご用件を」
「用件はこれです」
 案内したドイルが、とある部屋の中を示すと、そこにはウォーターフォード男爵の降霊会に使われたものと、ほとんど同じ、表面に小さなガラス玉を敷き詰めたカードテーブルが置いてあった。
「降霊会をやろう、と思いましてね」
「それで、どなたの霊を降ろそうと言うのですか?」
「デリカシーに欠ける、と思われたらどうかお許しください。あなたのお母様の霊ですよ」
「それで、霊媒は?」
 フィオナは微塵も顔色を変えずに尋ねた。
「このぼくです」
 ドイルがにっこりと微笑みながら答えた。

 暗闇にぼんやりと浮かび上がるテーブルに、フィオナとドイルが向かい合う位置に、空いた席にウォーレス博士とドッジソン教授が座った。
「ブライディーは参加しないのですか?」
 フィオナは空間を見渡した。
「亡き奥様の声を聞くのは忍びない、と申しましてね」
 ドイルが答える。
「…それでは始めますよ」
 霊媒と参加者が瞑想を始めて数分、フランス窓がかすかに開いて、なま暖かい風が吹き込み始めた。
 コツコツと部屋の中を歩き回る音が聞こえ、テーブルと椅子が小刻みにカタカタと揺れ始めた。
「フィオナ… フィオナ…」
 ドイルが高い声で語り始めた。
「…騙されてはいけないわ。あのキーラという霊媒が呼び出すのは、本物のわたしではありません」
「お母様、それは本当ですか?」
「本当です」
「しかし、キーラに呼び出されたお母様は、わたしとお母様しか知らないことを知っています」
「条件が揃えば、誰にでもできることです。私にも何か聞いてごらんなさい。…そう、あなたと、私と、ブライディーがいた頃の思い出などを」
 しばらく考え込んでいたフィオナだったが、やがてゆっくりと尋ねた。
「お母様が病気になられる前、三人で湖に遊びに行きましたね」
 しばしの間ののち、ドイルはテーブルに敷き詰めたガラス玉を一撫でして答えた。
「おまえがお気に入りの帽子を風で飛ばしたのを、ブライディーが服のまま飛び込んで拾ってくれましたね」
 長い沈黙ののち、フィオナは再び尋ねた。
「せっかく拾ってくれたのに、濡れた帽子はすっかり縮んでしまって…」
「おまえに笑顔を取り戻させようと、太陽に当てたら元に戻った。だけどあれは、私とブライディーがそっくり同じ帽子を作ってすり替えたものだったのよ」
「お母様…」
 フィオナは立ち上がって、安全マッチで再び蝋燭に火を灯した。
「どうして… どうしてドイル様にもわたくしの母の霊を降ろすことができるのですか?」
「簡単なことですよ。灯りをつけたままゆっくりとやりましょう。さぁ、質問をどうぞお嬢様」
 ドイルとウォーレス博士、それにドッジソン教授は互いに目配せし合った。
「だけど、せっかく元通りになった帽子をわたしはもうかぶらなかった…」
 間があった。
 一同は、ドイルの目の前に敷き詰められたガラス玉が一斉にほんの少しだけ不規則に盛り上がった。
 ドイルは目をつむってそれをゆっくりと指先で撫でた。
 盛り上がった部分は、またすぐに引っ込んだ。
「…そしてそのかぶらなくなった帽子はブライディーにあげたんです。彼女はいまもそれを大切に持っているそうです」
 フィオナは固く口を結んだまま、じっとうつむいていた。
「点字の原理です。この部屋で語られていることは、伝声管を通じて真下の地下室にいるブライディーが聞いています。そしてキーボードで正しい答を打つと、それがタイプライターに似た仕掛けで点字に変換されて、この小さなガラス玉を一瞬だけ押し上げる、という訳です。 仕掛けの導線を仕込むために、このテーブルも、お屋敷のテーブルも、中央に大きな支柱を持っています。…クルックス博士にブライディー、もういいから上がってきてください」
「すると、本当に答えていたのは…」
 フィオナがポツリと言った。
「お屋敷でのお母様の降霊会に『亡き妻の声を聞くのはいたたまれない』と言って、一度も参加しなかった人物、お母様の遺品の日記帳を読める立場にある人物です」
「お父様…」
 クルックス博士とブライディーが地下室から上がってきた。
「どうじゃった、仕掛けは無事に動いたかのぅ?」
「完璧でしたよ。設計製作、お疲れ様でしたな」
 ウォーレス博士は席を立って言った。
「お、お父様を恨んではいけませんよ。お父様はあなたがいつまでも悲しんでいるのを見てなんとか慰めようと…」
 ドッジソン教授も立ち上がった。
「だから、お父上を責めないでください」
 ブライディーが消え入りそうな小声で言った。
「勉強しなければ… もっと勉強しなければ…」
 しばしの間ののち、フィオナはそうつぶやいた。

「ドイル様たちは、どうしてこの仕掛けに気が付かれたのですか?」
「お屋敷を訪問した時、廊下の絨毯の中央がわざわざ注文して盛り上げられていました。だから、もしかしたらお身内に目の不自由なかたがいるか、かつていらしたのではないかと…」 夜が明ける前に、ブライディーはフィオナを屋敷まで送っていった。フィオナは今度はおとなしく馬車に乗った。
「ブライディー、私はどうすれば…」
 別れ際、フィオナはメイドにそう尋ねた。
「このままずっと骸なる母上を彷徨わせるか、天上の御国で安らかに眠って頂くか、選ぶのはお嬢様です…」

 ウエストミンスターの晩鐘が鳴り響き、ロンドンの街もゆっくりと暮れなずみ始めた。
「白詰草亭」では、きょう一日の仕事を終えた人々で賑わい始めていた。ドアの蝶番を外して床に置き、さらにその四方に黒ビールの入ったグラスを置いて、それを倒さずこぼさずにそのスペースで踊る者、次の日曜日のエプソン競馬場での重賞レースの予想を滔々と語る者、タブロイド新聞を広げる者、雇い主の悪口を肴に酒を飲む者…
 そんなお客たちのあいだを縫うように、パリッと糊とアイロンがきいた紺色のお仕着せと白いエプロンドレスを翻らせて、メイドたちが忙しげに走り回る。料理の匂い、油の臭い、酒の匂い、煙草の煙が充満し、話し声が飛び交う。
「やあ、ドイルの旦那。せっかくですけど、きょうも妖精のネタはありませんぜ」
「やあ、オマリー、いつものを頼む。きょうはその件じゃあないんだ。またブライディーを貸してくれないかな。こんど心霊研究協会で妖精を写した写真の真贋を判定する研究会を開くんだ。もちろん主な発表者はこのぼくさ。会員以外の者も大勢参加する予定だ」
 ドイルは出された酒を美味そうに飲み干した。
「大勢って、何人くらいですか?」
「さぁ、二十人くらいじゃないかな」
「ブライディー一人じゃかわいそうですよ。彼女はお貸ししますから、もう一人雇ってやってくださいよ。花売りしながら仕事に就けるのを待っている子もいるんです」
 当のブライディーは自分のことが話題になっていることを知ってか知らずか、皿投げの大道芸人のようにたくさんの皿を持ってテーブルのあいだをすいすいと歩き回っている。
「魚の唐揚げのお客様、お待ちどおさま」
「わかった。もう一人雇おう」
「さすがドイルの旦那、太っ腹だ。旦那のお陰で何人の子がアメリカやらに渡る船賃を貯められることか」

「妖精をイメージできるようなポプリがあったら、買ってきておいて欲しいんだ。あの屋敷はどうも黴臭くていけない。それと、当日は適当に花も活けて欲しい」
 ブライディーを従えたドイルは意気揚々と店を出た。もう一人の子は翌朝に直接屋敷に来る予定だ。
 ブライディーは指示された料理の食材や酒やらのリストを、ちびた鉛筆でメモしながら、少し遅れて付いてきていた。
 と、通りの向う側からも、ドイルたちと同じような、お仕着せのメイドを引き連れた四十がらみの、フロックコートに山高帽のガッシリとした体格の目つきの鋭い紳士が歩いてきた。すれ違った瞬間、何となくお互いに目があった。
 ドイルとブライディーは、相手のメイドの顔に見覚えがあった。相手の紳士の顔も、新聞などでよく見かける顔だった。そしてもちろん、相手のメイドもドイルとブライディーの顔を覚えていた。
「やぁドイル君。探偵小説の筆を折ってまで始めた心霊研究のほうはどうかね。思うように進んでおるかね?」
 紳士と連れのメイドは立ち止まってドイルたちを呼び止めた。
「これはこれはメイザースさん。お噂はいつもうかがっておりますよ」
 メイドはウォーターフォード男爵の屋敷で、フィオナの母の降霊術を行っていた霊媒のキーラだった。キーラは髪の毛で隠していないほうの目でブライディーを睨みつけた。
「あんた、よくも人がお金儲けをしているのを邪魔してくれたわね」
「そんな…」
「あんたがドイル氏にチクッったんでしょう?」
「そうですぞ、ドイル君。キーラがやっていたことは立派な人助けだったのに…」
 メイザースも眉を寄せた。
「確かにあなた達がやっていたことは人助けだったかもしれない」
 ドイルはブライディーをかばって、メイザースはキーラを制して向かい合った。
「しかし、ぼくには許せないことだった」
 何台かの馬車と、何人かの人が通り過ぎた。
 メイザースはニヤリと笑った。
「まぁ、お互いにたかがメイドがやったことでむきになるのも大人げない。きょうのところはこれで…」
 軽く会釈したメイザースは、キーラを連れて角を曲がって消えた。曲がり様、振り返ったキーラはもう一度ブライディーに睨みつけるような視線を投げつけた。
「ドイル様、わたし…」
「心配することはないよ、ブライディー。ぼくらは何も悪いことはしていない。恐れることは何もない」
「あのメイザースという紳士は?」
 ブライディーは不安そうにドイルの目を見上げた。
「『黄金の暁団』…いま、ロンドンで最大の勢力を誇る黒魔術使いたちの総帥格の男だよ。ボクシングとフェンシングの達人でもある。」
 ドイルは、ゆっくりと愛用のパイプを取りだして吸い始めた。





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